小樽の皆さま、小樽出身の皆さま、小樽ファンの皆さまへ! 自立した小樽を作るための地域内連携情報誌 毎月10日発行
bg_top
alwHOMEalw読んでみるalw観光学(37) 観光を読む

観光学(37) 観光を読む

旅育のすすめ
北海道大学 観光学高等研究センター
センター長・教授 石森 秀三


<写真提供:寿都町役場>
<写真提供:寿都町役場>

グランドツアー
 18世紀の英国では「グランドツアー」と称された長期間の一大修学旅行が重要な役割を果たしていた。当時の英国貴族の子弟は邸宅で住み込みの家庭教師によって教育がなされたが、その最終段階で欧州大陸への長期の海外修学旅行が行なわれた。普通は約3年間の大旅行で、最初の1年間をフランスのパリで過ごし、つぎの1年間をイタリアの諸都市で過ごし、最後の1年間をかけて欧州大陸の主な国々を周遊旅行した。
 当時の英国は世界の7つの海を制して、大英帝国を築きつつあったが、フランスやイタリアと比べると、文化的には欧州の辺境国に過ぎなかった。そのため、このグランドツアーで貴族の子弟がフランスやイタリアの貴族たちのサロンで芸術家や学者からさまざまな物事を学ぶとともに、上品なマナーや文化的な洗練さを修得していった。その結果、19世紀に入ってから、大英帝国はジェントルマンの国になり、ロンドンは世界の政治や経済や文化の中心に発展した。
 約1世紀間を通して、英国の指導的人材がグランドツアーをとおして、欧州の先進諸国に学んだことによって、その後の英国の発展が実現された。近代英国の発展の源にグランドツアーがあったわけであり、「旅行の教育効果」が国家的規模で立証された好例である。

食育基本法と旅育基本法
 日本では2005年に「食育基本法」が国会で成立している。子どもが豊かな人間性を育み、生きる力を身につけていくためには「食」が重要であり、食に関する知識と食を選択する力を習得し、健全な食生活を実践できる人間を育てることが「食育」の目的である。教育の根幹である「知育・徳育・体育」の基礎となるべきものとして、「食育」が位置づけられている。
 食育も大切であるが、それ以上に「旅育」が重要である。非日常の時空間を旅することによって、未知の世界や未知の人々や未知の物事に出会う。そのような未知との出会いをとおして、子どもたちは豊かな人間性を育み、生きる力を身につけていくことができる。
 農林水産、文部科学、総務の三省連携ですでに「子ども農山漁村交流事業」が実施されている。これは全国すべての小学生が農山漁村で長期の宿泊体験活動を行えるように支援する事業である。小学校高学年の児童が一週間程度、農家や民宿に宿泊し、農作業などを体験する事業で、都市の児童が農山漁村に行き、農山漁村の児童がそれぞれ異なる環境に出向いて、宿泊体験活動を行う。それによって児童の学ぶ意欲や自立心、思いやりの心、規範意識などを育むと共に、過疎化や高齢化などで衰退する農山漁村の活性化に貢献することが意図されている。
 子どもたちが充実した人生を生きていくためにはさまざまなことを学ぶ必要があるが、家庭や学校で学ぶことだけでは不十分だ。日常の家庭生活や学校生活とは異なる非日常的な時空間でさまざまな体験を行うことによって学べることが数多くある。
 政府は2003年から観光立国政策を推進しているが、国内旅行は低迷したままで今日に至っている。東日本大震災以後はより一層、国内旅行の需要が鈍化している。今こそ「旅育基本法」を制定して、旅行振興を推進することで地域活性化を図ると共に、多様で深みのある日本人の輩出を心がけるべきだ。旅育に力を入れることによって、21世紀の日本は新たな発展が可能になる。