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観光学(60) 観光を読む

中央の隆盛と地方の衰退
北海道大学 観光学高等研究センター
センター長・教授 石森 秀三




インバウンド1千万人達成
 今年1月下旬に東京都内のホテルで盛大に「訪日外国人旅行者1千万人達成祝賀会」が開催された。長年の国家目標がようやく達成され、東京五輪2020の開催も決定されているために、次は2020年を目途に「インバウンド2千万人」を目指すことが確認された。真にご同慶の至りだが、中央の見方と地方の見方は異なっている。東京中央では大政翼賛的に「観光立国」が賛美され、「インバウンド1千万人達成」が賞揚されているが、地方ではもっと冷めた見方が一般的ではなかろうか?
 まず指摘しておきたいのは、「インバウンド1千万人」という国家目標は本来であれば2010年に達成しておくべきものであった。国家目標未達成の原因がきちんと検証されなかったことは残念至極だ。すでにアジアでは観光大競争時代が到来しており、各国ともに観光立国に全力を投入している。日本も観光立国推進体制の構造的欠陥を是正しながら大競争に打ち勝たないといけないのに、3年遅れの国家目標達成で大政翼賛的に浮かれているのは「中央の奢り」であろう。このままでは東京五輪2020開催に向けて、「中央」だけが繁栄する観光立国の推進になりかねないことを危惧している。

夕張市と芦別市
 夕張市が財政破綻したのは2007年3月のことだった。ちょうど7年前になる。1888年に「夕張の石炭大露頭」が発見され、鉄道が敷設されて、夕張地域は一大産炭地になった。石炭産業が最盛期の1960年には人口11万7千人を記録した。ところがその後のエネルギー革命によって70年代以降に炭鉱が次々に閉鎖され、90年には全ての炭鉱が閉山された。79年から6期24年間にわたって君臨した中田鉄治市長は閉山が相次ぐ中で、80年代に「炭鉱から観光へ」というスローガンの下でテーマパーク「石炭の歴史村」「めろん城」「ロボット大科学館」「マウントレースイスキーリゾート」などの事業に積極的に投資を行い、財政破綻を招来した。現在の夕張市は人口1万人を切っており、地域衰退が著しいために将来の見通しを立て難い。夕張市の事例は観光が有する「負」の側面を照らし出している。
 夕張市と同様に、芦別市も大正期から産炭地として隆盛化し、1959年には人口が7万5千人を記録した。ところが60年代以降に閉山が相次ぎ、人口が急減、現在は1万6千人を切っている。その間にテーマパーク「カナディアンワールド」を90年に開園させたが、早くも97年に破綻した。
 芦別市は84年に「星の降る里・芦別」宣言を行い、86年には環境庁によって「星空の街」に認定された。93年に芦別開基百年記念事業として、大林宣彦監督を招いて「星の降る里芦別映画学校」を開校した。大林監督は「ふるさと孝行」を提唱しており、故郷・尾道のためだけでなく、芦別映画学校のためにも尽力している。今年5月から芦別を舞台にした映画「野のなななのか」(大林監督、常盤貴子・安達祐実主演)が全国ロードショーされるので、多くの人々が芦別に関心を抱くはずだ。
 とびきり美味しい道産米「ななつぼし」が全国的に話題になっているが、評判のお米をつくっているのは「芦別市きらきらぼし生産組合」(20戸)だ。地道な努力の積み重ねが多くの人々に感動を与え、地域の磁力を高めるはずである。中央の隆盛だけでなく、衰退著しい地方を元気にすることこそが「観光立国の使命」であろう。