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観光学(1) 観光を読む

観光立国の時代
北海道大学観光学高等研究センター
センター長・教授 石森 秀三


観光は国家的課題
 日本では長らく「観光」は国家的課題とみなされず、軽んじられてきました。ところが、個性派である小泉純一郎内閣総理大臣の登場によって状況が一転しました。2003(平成15)年に小泉政権のもとで「観光立国懇談会」が立ち上げられ、私はその懇談会のメンバーに指名されたために、何度も首相官邸に出向いて、今後の日本における観光立国政策の方向性について議論しました。とくに、私は懇談会の提言書の起草委員に任じられましたので、観光立国の理念について起草を行いました。

観光立国宣言
 2003(平成15)年4月に答申された観光立国懇談会提言を受けて、日本国家として初めての「観光立国宣言」がなされ、国土交通大臣を観光立国担当大臣に任じたことによって、一挙に観光をめぐる地殻変動が生じました。2007(平成19)年には観光立国推進基本法が制定され、2008(平成20)年10月には国土交通省の外局として「観光庁」が新設されました。

観光の経済波及効果
 観光立国の背景には、地球的規模での人の動きの活発化への対応という国際的側面と観光を基軸にした地域再生への対応という国内的側面があります。
 観光は「国富の増大」に貢献する国家的課題です。2006年度の旅行消費額は23・5兆円でしたが、生産波及効果では52・9兆円になり、産業連関表国内生産額の5・6%に該当します。また、雇用効果は442万人で、日本の総雇用の6・9%を占めています。世界の観光産業は全世界GDPの9・9%を生み出し、雇用も全体の8・4%を占めており、すでにリーディング産業として重要な役割を果たしています。

アジアの変革
 アジアにおける経済成長が継続されるならば、2010年代に「観光ビッグバン」の発生が予測されています。観光はすでにグローバル・フォース(世界を変革する力)としての威力を発揮しつつあります。アジアの諸都市ではシンガポールや香港の空港が国際ハブ空港として高い評価を受けていますが、それらに加えてソウル郊外の仁川、上海、クアラルンプール、バンコクなどで新空港がオープンしています。これらの新空港はフル稼働時には4000m級滑走路を4〜5本もつ巨大空港になります。アジアにおける観光ビッグバンは日本人の常識を超える形で進展しつつあるといえます。

国民の意識改革
 観光立国推進戦略会議は「2020(平成32)年に訪日外国人数2千万人」という目標を提唱しています。2015(平成27)年には中国人の外国旅行者数が一億人に達すると予測されており、十分に達成が可能です。ただし、インバウンド(日本に来る外国人旅行者数)推進で最大の難敵は国民の意識です。たとえば、2003(平成15)年の内閣府世論調査で「外国人旅行者が増えて欲しくない」と答えた人は約32%、「外国人へのビサ免除や手続簡素化は不要」と答えた人は53%にのぼります。また、2008(平成20)年12月に発表された内閣府「外交に関する世論調査」では「中国に親しみを感じない」とした人は66%にのぼっています。外国人観光客を気持ちよく迎え入れるためには、閉鎖的な国民意識の改革がぜひとも必要になります。観光は「国民の福利の増進」と「地域再生」「内需拡大」に貢献する国家的課題でもあります。少子高齢化の影響で、今後の日本ではほとんどの地域で定住人口の減少と地域経済の縮小が生じます。地域再生を実現するためには「交流人口の拡大による地域活性化」が不可欠になります。すでに日本の各地域で観光を基軸にした交流人口の拡大が「地域経営の基本」になっています。

観光ニーズの変化
 日本では長らく旅行会社や観光開発会社が観光需要の拡大に貢献してきました。その結果、1960年代以降に団体旅行・名所見物・周遊型のマスツーリズムが隆盛化しましたが、90年代に入ってからバブル経済の崩壊やインターネット革命の影響などによって観光ニーズの変化が生じて、個人型旅行・参加体験・滞在志向のニューツーリズムが重要になってきています。
 観光はもはや旅行業・宿泊業・運輸業などの特定業界だけの課題ではなく、一次産業から三次産業までの連携が必要な「地域総合産業」としての重要性を担っており、地域再生と内需拡大の切り札になりつつあります。
 この連載では、国内外の事例にもとづいて観光立国時代の諸相を読み解きます。