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観光学(19) 観光を読む

インバウンド1千万人達成に黄信号点滅
北海道大学
観光学高等研究センター 
  センター長・教授 石森 秀三



日中関係の険悪化
 9月7日に尖閣諸島沖で中国漁船が日本の巡視船に衝突し、中国人船長が逮捕されてから日中関係が非常に険悪になりました。中国政府は船長の無条件釈放を求め、民間交流の停止・訪日観光のキャンセル、レアアース(希土類)の対日禁輸などの対抗措置をエスカレートさせました。 今年7月から中国人の個人観光旅行者への査証発給条件の緩和がなされ、中国人訪日客の大幅な増加が期待されていただけに相次ぐ訪日キャンセルで日本の旅行業界は大きな悲鳴をあげ始めました。
 ところが9月24日に那覇地検の次席検事が記者会見を行い、海上保安庁が公務執行妨害の疑いで逮捕した中国人船長を処分保留のまま釈放することを公表しました。次席検事は「わが国国民への影響と今後の日中関係を考慮すると、これ以上、身柄の拘束を継続して捜査を続けることは相当ではないと判断した」と説明しました。しかし検察庁が明らかに国益のからむ外交問題でありながら処分保留・釈放の判断をしたことに違和感がのこります。
 いずれにしましても、民主党政権は中国との太いパイプが無いために中国政府の常軌を逸した強引な圧力に簡単に屈してしまったという印象をぬぐえません。中国とは「戦略的互恵関係」を築くことが求められていますが、現在の無責任な菅政権はしたたかな中国政府と対等に政治的交渉を行う能力のないことを如実に露呈しました。

新たな成長戦略
 折しも9月22日から奈良でアジア太平洋経済協力会議(APEC)観光相会合が開催されましたが、今回の会合のテーマはまさに「新たな成長戦略としての観光」でした。この会合の議長を務めた馬淵澄夫国土交通大臣は共同記者会見で「成長戦略のエンジンとしての観光の位置づけなどが十分に議論できた」と述べて、会合の成果を強調しましたが、実際には日本の観光成長のカギを握る中国との険悪な関係が浮き彫りにされる会合になりました。
 今回のAPEC観光相会合では、今後の日本の観光戦略のカギを握る中国との関係改善が期待されましたが修復は困難でした。馬淵国土交通大臣は中国政府代表との会談を辞退し、それを受けて中国代表団は馬淵大臣主催の歓迎レセプションを欠席したことで、両国の関係は険悪なままで会合が終了しました。
 中国では10月1日から建国を祝う国慶節が始まります。一週間に及ぶ大型連休で、多くの国民が国内外に旅行に出かけるために訪日旅行の隆盛化が大いに期待されていました。斜陽化が著しい日本の旅行業界にとっても訪日観光旅行の「かき入れ時」になるはずでしたが、日中関係の冷え込みの影響は今後も継続的に尾を引きそうです。

インバウンド一千万人に黄信号
 前原誠司前国交大臣は在任中に2010年に1,000万人、13年に1,500万人、16年に2,000万人、19年に2,500万人、というインバウンドの数値目標を明確に掲げました。ところが今回の日中関係の険悪化は中国側の訪日旅行自粛の動きを加速化させました。その結果、日本の観光庁が数値目標としてきた「2010年にインバウンド一千万人達成」に黄信号が点滅し始めています。この数値目標は2003年に設定されたものであり、7年の歳月が過ぎようとしているのに未だに数値目標が達成されないのは何故なのか?厳しい検証が必要になります。
 観光を「成長戦略のエンジン」にするためには、明確なビジョンと周到な戦略を練り上げ、政治主導による改革の断行が不可欠です。アジアではすでに熾烈な観光大競争が始まっており、もはや安易な気分や数値目標だけで勝ち残れる状況ではなくなっています。