世界で最も美しい湾
北海道大学 観光学高等研究センター
センター長・教授 石森 秀三
世界で最も美しい湾クラブ
カタールのドーハで開催されたユネスコの世界遺産委員会で「富岡製糸場と絹産業遺産群」の世界文化遺産への正式登録が決定された。地域の関係者の長年の努力が結実したことは素晴らしい。
日本人は世界の中で最も世界遺産が好きな人々とみなされているので、世界遺産のことはすぐに大きな話題になり、マスメディアで大々的に取り上げられる。されど昨年12月に松島湾が「世界で最も美しい湾クラブ」に加盟したことはほとんど知られていない。このクラブは1997年にフランスのヴァンヌ市に本部を置く非政府組織(NGO)として設立され、地球環境保護、観光資源の保全、観光振興などを目的にして活動が行われている。
すでに世界の中で42の湾(31カ国・地域)が「世界で最も美しい湾」に選定されており、クラブに加盟している。例えば、フランスのモンサンミシェル湾、米国のサンフランシスコ湾、ベトナムのハロン湾などが加盟している。松島湾は日本で最初の加盟湾という栄誉を受けたが、松島湾は古来より「日本三景」「四大観」などで国内的には有名だったが、このたび松島町の尽力で世界デビューを果たすことができた。
松島“湾”ダーランド構想
そのような動きを受けて、宮城県は「再発見!松島“湾"ダーランド構想:日本三景『松島』から世界の『松島湾』へ」という事業を立ち上げ、県と湾周辺三市三町(塩竈市、多賀城市、東松島市、松島町、七ヶ浜町、利府町)との緊密な連携の下で、松島湾全体の観光資源の磨き上げ、復興ツーリズムの推進、広域周遊ルート開発、プロモーション強化などを行い、東北観光の核としての松島湾を目指して広域連携を進めている。
松島湾は古くから観光地として著名だったが、近年は観光客数や宿泊客数が大幅に減少している。松島町を例にとると、観光客数は1991年の525万人に対して2010年は275万人、宿泊客数は1991年の116万人に対して2010年は64万人、に大幅減少している。もはや松島湾の景観が美しいだけで人を惹き付けることのできる時代ではないので、宮城県と3市3町の連携で新しい時代の変化に対応するかたちで松島湾エリアの未来を拓くことが期待されている。
民産官学の協働
松島“湾"ダーランド構想の成否は、民産官学の協働による持続可能な自律的観光の推進にかかっているといって過言ではない。幸い、松島湾エリアでは一般社団法人チガノウラカゼコミュニティなどが中心になって「つながる湾プロジェクト」が進められており、地域住民の積極的参画に期待したい。
チガノウラカゼコミュニティのメンバーは、海からの視点で松島湾と周辺地域を見直すことによって、この地域の人々を育んできた「海の文化」を再発見し、「陸の文化」とは異なる視点で松島湾地域をとらえ直そうとしている。つながる湾フォーラムや勉強会を開催して、松島湾の多様な可能性の模索を続けている。
この法人の津川登昭理事長は「製塩文化を伝える」「湾の産品を売る」「湾コミュニティの拠点としての湾の駅構想」などを提唱している。地域の人々が本格的に立ち上がるときに、地域の未来が拓かれていくことになる。