小樽の皆さま、小樽出身の皆さま、小樽ファンの皆さまへ! 自立した小樽を作るための地域内連携情報誌 毎月10日発行
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地産(30) 後志でなにが生産されているの

素材を活かした乳製品
株式会社 高橋牧場 ニセコミルク工房
代表 高橋 守 氏



高橋牧場のはじまり
 羊蹄山を望むニセコの高原に広がる高橋牧場。牧場の始まりは昭和16年、農業を営んでいた父の清一氏が飼っていた1頭の乳牛からだった。当時、国の農家に対する制度で、各農家に牛を貸し付けていた。これは酪農を奨励する目的ではなく、糞尿から堆肥を作り農作業に活かすことが目的だった。借りた牛を繁殖させ、その子牛を返し、また次の農家へ貸していくというやり方だったという。化学肥料がまだ少ない時代で、農作物の収量を高める手段だった。この時、高橋家はまだ農業主体で、牧場ではなかった。
その後、父と兄が少しずつ牛を増やし農業の他に酪農でも生計を立てるようになった。

転 機
 もともと、農業にも酪農にも興味がなかった高橋さんだったが、現在につながる出来事が起きる。ある時、飼っていた牛を、家を継いでいた兄が品評会に出した。いわゆる血統の良い品種ではなかったが、雑種の部門で優秀の評価を得たのだ。これは、酪農家にとって名誉なことでもあり、評価の高い牛から繁殖した牛は高く取引されるようになることで経営にも大きく貢献してくれることが期待された。それまで興味のなかった酪農であったが、このことを目の当たりにした高橋さんは酪農の目的が見えたことで、牧場を継ぐことになる。兄に勧められ、酪農家になる決心をしたのは高校を卒業してすぐのことだった。

土づくり、草づくり、牛づくり
 それからは酪農のイロハを勉強するため、当時の雪印乳業による酪農研修に出向いたり、とにかく勉強した。当時学んだことで、今も肝に銘じている言葉に「酪農は土づくり、草づくり、牛づくり」。つまり良い牛を育て、おいしい牛乳を生産するには良い牧草が育つ、良い土を作らなければならないということ。化学肥料に頼る牧草作りでは、牛は健康を害するし、良い牛乳を出さない。酪農家の最大の技術は良い餌を作ることだという。良い餌を食べ健康に育つことで、体型の良い立派な牛に育ち、他の酪農家が欲しがる牛となる。つまり酪農家は牛乳のみを生産するだけでなく、良い牛を出荷するのも経営のもう一つの柱だ。

節目に出会った恩人と「ニセコヌプリ」
 牧場を継いでみたはいいが、一向に経営は上向かなかった。牛を増やすということは施設を増設すること、機材を増やしていくということ。その度に借入金が増え、割のいい仕事ではない。厳しい経営がしばらく続いた頃、最後の投資として血統の良い1頭の牛を紹介される。それはとても簡単に手を出せる金額ではなかったが、高橋さんの熱意で融資が決まり、すぐに道東の牧場に買付に向かった。ところが、そこにはみすぼらしい姿の牛がいた。とても高額の牛には見えなかった。だまされるかもしれないとも思った。しかしオーナーは「自分を信じなさい。絶対に間違いのない血統だ」と言い切った。その時のオーナーの言葉と表情を信じ買うこととなった。
 オーナーが言った通り、この牛の評価は高く、繁殖した牛は全国各地へと出荷され高橋牧場の経営に大きく貢献し、救世主ともなった。このオーナーとの出会いが大きな節目となった。繁殖した牛は「ニセコヌプリ」という名で取引され、この名前は北海道ニセコ町高橋牧場生産の牛として今も知られているという。

直売のこだわり
 酪農にこだわればこだわるほど、大きな矛盾を感じた。いくら美味しい牛乳を生産しても評価されるのは大手乳業メーカー。いつか自分で育てた牛から搾った牛乳を加工してお客様に味わってもらいたい。この気持ちが強くなった。
幸い「ニセコヌプリ」によって経営も安定してきた平成9年、ミルク工房をオープンさせ、アイスクリームを販売した。こだわったのは味。牛乳を生かす味にするため、自然な甘さを追及した。自分らしい味にするため試行錯誤を繰り返した。インパクトのある味よりも、何回でも食べたくなる味が高橋さんの流儀だ。

コンセプトは“牛飼い”がつくる味
 平成12年、「飲むヨーグルト」の販売開始。アイスと同様、牛乳の美味しさを追求し、毎日飲める味にこだわった。シンプルな原料で生産することが信条。味を足すことはいくらでも出来る。しかし、それでは自分たち牛飼い≠ェわざわざ作る意味はないと言い切る。今ではヒット商品となった飲むヨーグルト。大手バイヤーなどからの引き合いも多々あるというが、丁重にお断りしているという。大量生産での品質管理や工場規模拡大のリスクなどを考えると、目の届く範囲で大切に売っていくことがベスト。そこには高橋さんの牛乳そのものにこだわったコンセプトが見えてくる。

次世代の展開
 現在、ミルク工房では様々な展開をしている。アイスやヨーグルトの他にロールケーキやシュークリーム、バームクーヘンなど、高橋さんのコンセプトを理解している娘さんが中心となり、開発販売している。さらに平成23年には地場野菜をメインとしたビュッフェレストラン「プラティーヴォ」がオープン。後志の野菜の美味しさを活かすため、濃い味付けは極力避け、野菜本来の味と香りにこだわっている。もちろん、デザートはミルク工房のお菓子や飲むヨーグルトなど多彩。夏場の観光シーズンは、中々入ることができないほどの人気店となっている。
 この先は徐々に息子さん、娘さん世代が中心となり展開していく高橋牧場だが、恐らく高橋さんのコンセプトだけは、いつまでもしっかりと引き継がれていくことだろう。

ミルク工房
〒048-1522 北海道虻田郡ニセコ町字曽我888番地1
TEL&FAX(0135)44-3734
URL:http://www.milk-kobo.com
*国道5号線、倶知安市街地からニセコ方面に向かい、市街地を過ぎてグランヒラフ方面へ右折。ニセコ町内に入り点滅信号の交差点をニセコビレッジ方面へ右折し、400m程で右側に赤い建物のミルク工房があります。