島根と小樽
文化的視点
経済的視点ではなく文化的視点で全国を見渡したとき、島根県は上位にランクされることに異存はない。経済的には人口が尺度となり、全国47都道府県中46位の712,000人<平成23年度 総務省統計局>、ちなみに最下位は隣の鳥取県。文化的視点の代表格は小泉八雲であることも同意する。
文化的視点とはいかにも曖昧だが、ここでは小泉八雲という人物が感じた視点を切り口として考察する。
小泉八雲
ラフカディオ・ハーンはアイルランド人の父とギリシャ人の母から1850年に生まれ、1890年にアメリカの女性ジャーナリストのエリザベス・ビスランドから旅行の帰国報告を受けた際に、いかに日本は清潔で美しく人々も文明社会に汚染されていない夢のような国であったかを聞き、急遽日本に行くことを決意する。
1890(明治23)年に来日し、翌24年に島根県松江市に移住し松江の士族の娘小泉セツと結婚、29年に小泉八雲として日本国籍を取得する。
気配
来日したラフカディオ・ハーンの移住契機となったのは、神々への気配といわれている。ビジター観光客を引き寄せる小樽印象のトップにはファンタジーがあげられるが、ファンタジーは気配を意味する。つまりリアリティの対局であるシュールの中でも体系化できるような奥深さにファンタジーは当てはまる。
そうするとラフカディオ・ハーンは神々の気配とともに生きる喜びを会得したライフスタイルを打ち立てた人物といえる。
宍道湖
島根県松江市と出雲市にまたがって宍道湖がある。38年前に宍道湖が見える友人宅に筆者が滞在した際にはラフカディオ・ハーンを知るほど文学的素養がなかったが、いかにも神秘的な情景に見えたことをさやかに記憶している。
人は神にはなれないが憧れはする。その手がかりは「神の気配」を感じるからだ。生きる価値は目に見えるものしか信じないという形而下的概念だけではないだろう。神が偶像なら地域も社会もまた偶像だ。社会は確認できる個人の集まりであり、地域はそこに土地が加わっているに過ぎない。個人と土地だけは目に見えるが地域社会は偶像に近い。神と共に生きることも、地域と共に生きることも同義だ。
小樽の二面性
ハワイに降り立てば心が陽気になり、島根に行けば神秘性が漂うなどと感じるのはもちろん人間だが、この現象に異存を唱える人は少ない。とすれば理屈や科学で解明できないその土地になんらかの磁気のようなものが漂っていると思えるのも不思議ではない。人間の感受性だけが原因ではないということだ。人間が確認できる形而下的現象と、確認できない形而上的現象の間で、人間に許された手がかりは「気配」ということになる。そういう意味で小樽は明治から戦前までは「無神経な陽気さ」を醸し、戦後から今日までは「アンニュイ」を醸す二面性を持っている。