小樽の皆さま、小樽出身の皆さま、小樽ファンの皆さまへ! 自立した小樽を作るための地域内連携情報誌 毎月10日発行
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帰化人(43) 小樽こだわりのライフスタイル

個々の人に喜んでもらう宇宙
鈴木 一史 氏

えびす屋小樽
〒047-0031 小樽市色内2-8-7
TEL 0134-27-7771 FAX 0134-27-7776
E-mail otaru@ebisuya.com
http://www.ebusuya.com/


鈴木 一史 氏
鈴木 一史 氏


えびす屋
 人口減少が止まらない小樽。ただでさえ少子化に加え若い世代がこの街を出ていく。そんな中で、健康的な黒い肌に優しい笑顔の若者軍団がいる。えびす屋の若者たちだ。人力車という乗り物としては原始的な体験と同時に、小樽についてのウンチクを大きな声で語る姿は、この小樽にどれほど勇気を与えているかしれない。

悩める青年
 鈴木一史氏は1981(昭和56)年函館生まれ。2004年に山形大学理学部物理学科を卒業後、大学院に進学。「宇宙から来る電波の角度を計測する機械設計の研究」という遠大で頼もしい研究である。
 しかし鈴木氏は人間関係の不器用さに悩まされ、志半ばで大学院を中退帰函。人間関係などという俗っぽい関係のために、地球にとって大切な研究を放棄。「器用に甘えられなかったんですね。甘えられないから全部が自分の責任と思い、それに押し潰されそうになっていました」という。中退後しばらく引きこもりとなるが、「このままではいけない。外へ出なければ」という思いにかられたとき、アルバイト情報を手にし、えびす屋函館に目がとまる。
 人間関係に悩んだ物理学研究者が選んだ仕事は、人間を乗せて地べたを走る肉体労働だった。乗っていただくためには「いかがですか」という営業も必要、乗せて走るにも乗客に喜んでもらうためのガイドも必要。全てが苦手な領域だった。
「なぜ人力車だったのかは自分でもよくわかりません。人間を個々の人ととらえない宇宙研究から、個々の人に喜んでもらうことを宇宙とする仕事ですからね。真逆といえるかもしれません。弓矢と同じように引いた分だけ飛ぶという現象ですね」と自らが実験台となって、人間にとっての宇宙を志向しているようだ。

帰化経緯
 函館から出向して紅葉期には京都、年末年始には湯布院へも車夫として赴いた。2007年に正社員として採用され、函館で結婚後、2009年から小樽に赴任。32歳の若者の新たな人生が始まる。

人力車の宇宙観
「人間関係に不器用な自分ですから、運河周辺の観光客100人に声をかけて、10人が話を聞いてくれ、1人が乗っていただくという確率ですね。そして乗ってくれて僕のガイドに喜んでくれるとこんなうれしいことはないと心から感じます」
 人は人に喜んでもらうために生きているといっても過言ではない。このけなげさを逸脱させる人も多い。しかし(宇宙から帰還した)鈴木氏の人間としての発見の喜びは、喜んでくれたお客様の笑顔から逸脱することはないだろう。
 むしろ「一度喜んでもらえると、もっと喜んでほしいと思うんです。そしてそういう自分にナルシズムさえ覚え酔うこともあります」と素直にいうように、笑顔の宇宙を切り開こうとする。まさに「酔う」体験こそが神との遭遇なのだ。

小樽観
 小樽のガイドをするために2012年「おたる案内人1級」を取得、現在「マイスター」に挑戦中だ。
「日本海側から訪れた方に北前船の話をすると皆さんよく納得の表情をされますね」
「また小樽への功労者の出身地の中でもお客様の出身地が一致するとそこから会話もはずみます」
 このように客と車夫の間にある未知の世界に、一本のバイパスが発見されると、そこから互いの宇宙観のコミュニケーションが咲き笑顔が生まれる。
「僕は小樽の冬の運河が大好きです」ともいうが、冬の運河を仕事以外であえて見に行く小樽人は皆無に近い。えびす屋は仕事とはいえ昼夜冬の運河にいる。この特殊な立場でなお四季折々の運河風景の中で冬を選択することに、小樽人も学ぶべきかもしれない。