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観光学(56) 観光を読む

防災グリーンツーリズム
北海道大学 観光学高等研究センター
センター長・教授 石森 秀三


中越大地震
 2004年10月23日17時56分に新潟県中越地方を震源として直下型地震が発生した。マグニチュード6・8、最大震度7の「中越大地震」であった。その後、余震が千回以上も続き、死者68人、負傷者4,805人、総額3兆円に及ぶ甚大なる被害を生みだした。
 中越大地震の被災地には「中越メモリアル回廊」が創られている。「私たちの10・23を伝えるために」という旗印のもとで、震災の記憶と記録にふれることのできる「情報の保管庫」として被災地の4施設、3公園がネットワーク化されている。長岡震災アーカイブセンターきおくみらい、おぢや震災ミュージアムそなえ館、やまこし復興交流館おらたる、川口きずな館、震央メモリアルパーク、妙見メモリアルパーク、木籠メモリアルパークで構成されている。
 私は回廊の各施設を見学して、自然の猛威の凄さと非常事態における地域住民の連帯の素晴らしさを知ることができた。さらに最も被害の大きかった旧山古志村(現在は長岡市と合併)を訪れ、地域の方々から詳しく話を聞くことができた。
 山古志地域は山間部なので、歴史的に豪雪や、大雨による山崩れなどで道路が寸断されて「陸の孤島」になることが多かった。そのために地域の人々は昔から力を合わせて自分たちの地域を自分たちで守る伝統が育まれており、中越大震災の際にもその伝統が活かされた。村の人が「大震災は大きな被害と悲しみをもたらしたが、その一方で人と人とのつながりの大切さをあらためて教えてくれた。それは大きな宝です」と話しておられるのを聞いて、深く感動した。

防災グリーンツーリズム
 今年10月23日に中越防災安全推進機構の主催で中越大震災9周年復興祈念シンポジウムが開催された。テーマは「防災グリーンツーリズム:広域避難に備える減災社会への提案」で、パネリストとして泉田裕彦・新潟県知事、田中良・東京都杉並区長、谷井靖夫・小千谷市長、高橋直子・新潟日報編集委員が参加し、私はコーディネーターを務めた。
 首都直下地震の発生が予想される中で、小千谷市と杉並区はすでに2004年5月に災害時相互援助協定を締結して自治体間協力を行っている。本来は首都圏の大震災を想定して協定を結んだが、結果的には約半年後に中越大震災が発生し、杉並区が小千谷市を援助するかたちでスタートした。
 新潟県の泉田知事は2008年に「防災グリーンツーリズム宣言」を行って、首都直下地震等の避難者100万人の受け入れを目指して、「第二のふるさと・新潟」を提唱している。新潟県は大地震や豪雪や洪水などに頻繁に襲われる被災県であり、それが故に防災や減災などに対する意識が高く、被災者の気持ちをだれよりも熟知している方々が数多く居られる。その上に、新潟県は日本有数の食料生産基地であり、豊かな自然に恵まれると共に、人と人の絆が強い地域でもあるので、グリーンツーリズムをとおして大都市圏住民にとっての「第二のふるさと」なりうる地域である。泉田知事は震災による広域避難者の受け入れをとおして新潟県のポテンシャルを高めようとしており、表層的な観光振興ではない、多義的な可能性を秘めた「防災グリーンツーリズム」の成功を応援していきたい。