統合型リゾートの新展開
北海道大学 観光学高等研究センター
センター長・教授 石森 秀三
統合型リゾートとはなにか
日本各地で統合型リゾート(IR)誘致が活発化している。統合型リゾートとは「カジノだけでなく、コンベンション施設、ショッピング施設、エンターテインメント施設、飲食施設、展示施設、ホテルなどが入る大規模リゾート」のことである。
IRは米国で成功を収めたが、近年はアジアのマカオ、シンガポールで展開され、大成功を収めている。マカオでは外資系企業にカジノ運営を任せるかたちで2002年に開業し、早くも'06年にラスベガスを抜いて世界ナンバーワンのカジノ都市になった。'13年のカジノ収入は約4兆6,000億円に達していると推定されている。
シンガポールは外国人観光客(とくに中国人観光客)をマカオに奪われたために危機感からカジノ解禁に踏み切り、最終的に'10年に二つのIRを開業させた。一つは米国のラスベガスサンズ社、もう一つはマレーシアのゲンティング社が落札して開業。IRの効果は劇的であり、開業前の'09年の外国人観光客数970万人が開業後の'10年には1,160万人に増加、同様に国際観光収入は約1兆500億円から1兆5,500億円へ、外国人観光客の消費額(一人平均)が10万8,000円から13万3,000円に増えている。
IR推進法とIR実施法
昨年12月に自民党、日本維新の会、生活の党の三党はIR推進法案を国会に提出。IR実現に向けて、まずIR推進法案の成立が不可欠。推進法は政府にIR実現のための措置を義務付けるもので基本法に該当。推進法の可決・施行後1年以内を目処に事業に対する諸規則を盛り込んだIR実施法を別途成立させる必要がある。
今後のスケジュールとして想定されるのは今通常国会でIR推進法が成立、'15年夏頃にIR実施法が施行。'16年頃に政府が設置区域の公募・選定を実施し、それに自治体が応募。政府によって選定された自治体は民間事業者を選んで、'17年以降に着工し、'20年に開業、という流れだ。IR実現には巨額の資金が必要であり、企業連合を組む必要がある。いかなる企業がIR事業に参入してくるかが注目されることになる。
4月下旬に大阪府の松井一郎知事と大阪市の橋下徹市長は府市が連携して、大阪湾の人口島「夢洲」にIRを誘致し、'20年の開業を目指すことを公表。夢洲はかつて大阪市が夏季五輪招致を行った際に選手村として活用する計画であったが、五輪誘致に失敗。市が造成した390haのうち150haが空き地で残されており、そこを活用する予定。周辺の湾岸地区にはすでに'01年にUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)が開業し、年間1,000万人を集客している。その上に夢洲は人工島なので治安対策が立て易い利点がある。
北海道でも小樽市や苫小牧市や釧路市などがIR誘致に熱心で、四月下旬には小樽市長や苫小牧市長が韓国を訪れて、カジノリゾートを視察している。
IR法案の大綱では施設数は最大10ヵ所が想定され、当初は3ヵ所程度が適当とみなされている。IRは公的管理を十全に行えば、地域活性化に大きく貢献できる装置だが巨額資金が必要なので、IR誘致のハードルは極めて高い。IR誘致には、政治力、企業の思惑、ギャンブルに対する地域の拒絶感など様々な課題が山積しており、安易に「無いもの強請り」に走らずにしっかりと足元を見つめ直して、地域の未来を構想することが肝要だ。