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観光学(63) 観光を読む

日本の底力を知る
北海道大学 観光学高等研究センター
センター長・教授 石森 秀三


浄土寺(左手前が本堂、右奥が多宝塔、いずれも国宝)
浄土寺(左手前が本堂、右奥が多宝塔、いずれも国宝)

寺のまち・尾道
 私は最近、広島県尾道市を訪れる機会が多くある。北海道大学観光学高等研究センターが広島県から委託を受けて「観光地の価値向上戦略策定事業」を担当しており、西山徳明センター長等と一緒に仕事を行っている。
 先日、尾道市の浄土寺を訪れる機会があった。尾道市は「寺のまち」であり、数多くの寺院が存在するが、そのうちで最古の寺院は浄土寺である。この寺は616年に聖徳太子による開基と伝えられている。1327年に一度焼失したが、すぐに復興されて今日に至っている。700年ほど前に建立された本堂と多宝塔が国宝に指定されており、阿弥陀堂と11面観音立像などが重要文化財に指定されるとともに、近世以前の寺院景観を良好に残す境内地全域が国宝に指定され、また庭園も名勝に指定されている。まさに由緒のある寺院である。
 浄土寺では2008年から「平成の大修理」が行われている。実はこの寺では「昭和の大修理」が1968年から行われ、その際には本堂や多宝塔などの国宝の建造物を中心に実施され、今回の「平成の大修理」では重要文化財である方丈、茶室(露滴庵)、客殿、宝庫、唐門、山門などが約五年をかけて修理されている。

経済力と文化力
 平成の大修理に要する経費は総額で約10億円といわれており、そのうちの7割を国が負担し、広島県と尾道市が各1割ずつ、所有者が1割負担という割合とのこと。浄土寺が負担する約1億円についてはその多くが檀家などによる寄進で賄われている。
 尾道は古くから瀬戸内海屈指の良港で、経済・交通・軍事上の要地であったことから町衆の経済力と文化力が優れており、その伝統が今日まで継続されている。まさに「日本の底力」を垣間見る思いがする。
 文化庁と観光庁は昨年11月に包括的連携協定を結んだ。その目的は2020年の東京五輪に向けて観光振興・文化振興の基盤整備が求められる中、両庁の連携で日本の素晴らしさを世界に発信し、日本ブランドの形成や文化交流のハブづくりを目指すことである。具体的には、東京五輪の文化プログラムの企画立案、地域の有形・無形の文化財の価値を保全しつつ観光に活かす工夫、各種の文化事業と観光事業の連携など。
 今後の日本にとって2020年の東京五輪は重要な役割を果たすはずであり、その機会に文化庁と観光庁が連携して日本の素晴らしさを最大限に世界に発信し、観光面でも活気につなげていくことは必要なことである。されど、現実には日本の各地方における様々な面での衰退は著しいものがある。とくに日本を日本たらしめてきた各地方の伝統文化が著しく損なわれていることは事実であり、今こそ相当の覚悟を持って、消えゆく伝統文化の保存と継承に力を注いでいくことが大切である。
 日本の底力は文化力と経済力の絶妙のコラボによって発揮されるべきであり、経済成長だけでなく、文化を保全・発展させるための仕組みづくりや人財育成にもっと巨額の公的資金を投入すべきだ。小樽の場合にも明治時代に地元の有志が国に働きかけ、巨額の地元資金を拠出して、小樽高商(現在の小樽商科大学)の設立に尽力した。当時の小樽の有力者たちは経済力と文化力を併せ持っていたといえる。その小樽で1990年から約25年間続いた「伊藤整文学賞」が資金難のために終了することになった。実に残念かつ無常なる現実である。