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COLUMN

戒厳令
編集人 石井 伸和


戒厳令
 2014年5月20日午前3時、タイのプラユット陸軍司令官が戒厳令を全土に布告した。政府派と反政府派の対立を見かねての戒厳令だ。ところが、武器を持った兵士がところどころに待機する有事風景があるが、一般市民による通勤・通学・買い物は、通常通りだという。陸軍は「クーデターではない」といい、後日(23日報道)「クーデター」だと宣言したが、「可能な限り早く平和を回復したい。全当事者にデモを中止するように促す」と訴え、反政府デモ隊とタクシン派の双方に混乱収拾を求めた。
 この構図は人類史の快挙といっていい。政治が混乱し民衆に大きな犠牲が出そうな手前で、プラユット陸軍司令官という軍のトップが戒厳令を発し、相反する政治家達に「お前らいい加減にしろ。このままでは内戦になりかねないぞ。俺たち軍は内戦は許さない。当事者どうしでしっかり話し合って方向性を決めろ!」と迫ったことになる。平和維持のための軍事ブラフだ。

シビリアンコントロール
 本来、国家の軍はシビリアンコントロール(文民統制)という考え方の下で、政権が掌握している。シビリアンコントロールとは「喧嘩をしないように話し合いをする」文民(政治)が武力(軍)をコントロールするという意味だ。
「喧嘩をしないように話し合いをする」という政治の優先順位は人類史の共通する智恵だし、未来永劫にそうであってほしい。日本においては、かつて軍部が政治をコントロールした事例として、第二次大戦の東条英機陸軍大将がそうであったから、身を以てシビリアンコントロールを理想とする。少し前のリビアのカダフィや、現在のキューバのカストロも軍部を以て権力を掌握した軍人あがりの政治家で、独裁色が極めて強く、北朝鮮も同様に金日成が掌握した軍を所管する家系が政権を継承し、独裁そのものだから、世界は他山の石としても学習したといえる。
 独裁国家と民主国家のどちらがいいかは歴史が証明し、その証明がシビリアンコントロールという智恵を生み、多くの国々で普遍化してきた。

武力とブラフ
 大人げない大人が暴挙に出ればその影響は大きいから、抑止するために強制力を持たねばならない。大人げない大人はそもそも話し合いができないからだ。だから抑止するために強制力が必要になる。これが武力だし、抑止を目的とするのが政治だ。そして政治の下に武力(軍)を従えるのがシビリアンコントロールで、それは暴挙を抑止するためのブラフともいえる。
 ところが軍備の中に核が登場した。核ほどブラフ効果のあるものはないが、一方で核がブラフを超えて行使されれば地球は止めどなく崩壊の道を辿る。現在はこういう構図の中にある。
 プラユット陸軍司令官
 そしてこの度のタイの出来事だ。プラユット陸軍司令官はこの世界情勢の危機感をしっかり把握し、核こそ持たないが、これを自国タイに当てはめ、「軍を掌握する司令官として人格こそがコントロールの尺度だ」という事例を示した。
 これはシビリアンコントロールをすべき、シビリアンであるはずの政治家の堕落を意味する。「お前ら、ちゃんと民衆のことを考えて政治をしないと軍事力を行使するぞ」という政治家へのブラフである。
 もし、プラユット陸軍司令官のこうした人格が想像通り、「一本化されたら俺たち軍部をおとなしく政治に従う」というシナリオなら、世界中に発信すべき朗報だ。
 国家どうしの戦争はもちろん、同国人どうしの内線もまっぴら御免だ。ましてブラフを超えたら地球滅亡がリアリティを持つ今日、政治家も当てにならなければ、最後の砦は軍部を掌握する司令官の人格しかない。