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観光学(9) 観光を読む

松下幸之助氏の観光立国論
北海道大学 観光学高等研究センター 
センター長・教授 石森 秀三



民主党政権による観光立国
 今年8月の総選挙前に観光業界のあいだで奇妙な噂が流れていました。いわく「民主党政権になると観光予算が大幅に削減され、昨年新設された観光庁も廃止されて観光部に格下げになる」という根も葉もない噂でした。ところが、実際に民主党政権が成立してから観光立国政策が本格化し始めています。
 前原誠司国土交通大臣は就任記者会見で「地域の魅力を活かし、地方公共団体や住民が主役になった観光政策を支援するなど、観光立国の実現を総合的に推進する」と述べるとともに、来年度の観光庁予算を概算要求で4倍増の256億円にして観光立国政策を強化する方向を鮮明にしています。

松下政経塾と民主党政権
 民主党には松下政経塾出身の国会議員が多数存在しています。前原大臣も京都大学卒業後に松下政経塾で学んでおり、そのさいに松下幸之助氏が提唱した「観光立国論」を熟知する機会があったようです。
 徒手空拳から一代で松下電器を世界的企業に成長させた松下幸之助氏は、日本を代表する経営者として現在でも尊敬を集めています。松下氏は「新しい国家経営を推進していく指導者育成が必要である」という思いに基づいて、私財70億円を投じて、1979(昭和54)年に「松下政経塾」を設立して政界・財界のリーダー養成に尽力しました。
 松下氏は1954(昭和29)年に雑誌『文藝春秋』に「観光立国の弁」を寄稿しました。松下氏が60歳のときに発表された「観光立国論」は55年の歳月が過ぎましたが、今なお新鮮な論点を数多く含んでいるので、ここで取り上げます。

なぜ観光立国なのか?
 松下氏は「観光に対する理解なり認識の度合いが、官民共にきわめて低調」と指摘し、「政府がこれ(観光)にあまり乗り気でないために、民間もこれに従って、観光についての力強い創意も工夫も生み出さず、ただ石炭を掘ること、石油を探すこと、そして商品を輸出することに、国民あげて力を注いできた」と述べています。
「観光は決して単なる見世物商売ではなく、それは、持てる者が持たざる者に与えるという崇高な博愛精神に基づくべきものだと信じています」と観光に対する高邁な理念を表明し、日本が持てる「景観の美」や「自然の美しさ」などはいかなる埋蔵資源にも勝るとも劣らぬと強調しました。
 松下氏は、「戦後、経済自立の道として、工業立国、農業立国あるいは貿易立国など…に多くの金が費やされた」が、「観光立国こそ、わが国の重要施策」と提唱しました。その背景には、当時の日本の貿易収入はたったの約10億ドルでしたが、国際観光の振興で約8億ドルを稼げると予測し、「観光もまた広い意味での立派な貿易」とみなして、観光産業を「輸出産業」として的確に位置づけています。現在では当たり前の考え方ですが、当時においては画期的な発想といえます。

観光立国の最大の利益
 また、松下氏は「観光立国によって生み出されてくる最大の利益は、日本が平和の国になるということ」と指摘し、「観光立国によって全土が美化され、文化施設が完備されたならば、その文化性も高まり、中立性も高まって、諸外国も日本を、平和の楽土として盛り立ててゆく」と提唱しており、文化的安全保障としての観光の意義を実に的確に把握しています。
 さらに、「観光省の新設」を提唱するとともに、「たくさんある国立大学を観光大学に切り替える」ことも提案し、「観光立国によって日本の繁栄が大いに期待できる」と締めくくっています。まさに、その通りです。