小樽の皆さま、小樽出身の皆さま、小樽ファンの皆さまへ! 自立した小樽を作るための地域内連携情報誌 毎月10日発行
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まちづくり観光(16) まちづくり運動と観光

新興芸術和装の街
おたる遊幻夜会実行委員会


第一回おたる遊幻夜会
第一回おたる遊幻夜会


発端
 2008(平成20)年夏、小樽市出身・在住の作家 蜂谷 涼氏、浦河町出身の名優 伊藤哲哉氏、札幌交響楽団首席ファゴット奏者 坂口 聡氏の3人による酒席で、「国立能楽堂よりも格式が高いとされるこの小樽の能舞台で、一緒に何か面白いことをやりたいですね」という会話が交わされました。
 人は、ある環境を目にしたとき、その潜在性を自らの視点で引き出し、なんらかの具体的な表現によって顕在化させます。その作業によって歴史は再生もしくは継承されてきました。ただしその環境そのものに、汗の結晶や研ぎ澄まされた感性が染みこんでいることが鍵になります。かつて汚れきった運河ではあっても、美しい水辺空間を共通にイメージして「生かす」ことを目指して盛り上がったように。
 小樽の能舞台を見て、芸術の世界で研ぎ澄まされた感性をもつ3人が、そう感じても不思議ではありません。

形成
 新たな表現の動きは、小樽の能舞台で伊藤氏の演技と坂口氏の演奏を前提に描かれた蜂谷氏の小説「遠き橋懸り」から始まります。この緊張感と直感に、能や狂言あるいは演劇という伝統的ジャンルが、微笑んで通り道をつくってくれたのかもしれず、まったく新たな表現として「遊幻夜会」と名付けられたのも理解できます。そして演出家 十島英明氏・舞台監督 新見真琴氏・作曲家 浅野宏之氏が加わり、小樽実行委員会が結成されました。

第二回おたる遊幻夜会
第二回おたる遊幻夜会
実行委員会
 緊張感はスタッフたちにも伝わり、和服着用に加え接客マニュアルが作成され徹底活用されます。さらに現場検証によって団扇・虫除けスプレー・ウエットティッシュなどが配られ、観客の集中度を高める気配りにも余念がありません。そして半野外であることから、月あかりや霧雨までもが応援してくれ、偶然にも市内で火事や事故もなく、消防車やパトカーのサイレンも鳴りを潜めたようです。
 四日間開催で全日満席、チケット販売650名、招待150名の盛況で幕を閉じました。
 スタッフにとって最も嬉しかったのは、数多くの小樽市民に加え、遠く岡山・京都・東京や北海道各地から足を運んでくれたことに加え、「とても感動した。来年もぜひ観たい」と声をたくさんいただいたことです。そして和装のお客様も多くいました。このような現象は、観客の方々もスタッフと同じ緊張感と気持ちを抱いてくれたことになり、舞台が一つになった証といえます。

発信
 この稿は「まちづくり観光」ですが、取材最中に「無理して観光に結びつけるのも野暮」と感じました。しかし、この現象は結果的に観光、なかんずく地域文化の創造に十分貢献していることを知りました。
 「能舞台」を基盤に、新興芸術の街、和装の街という付加価値が小樽に芽生えたことになります。逆にいえば、本物は人の心に浸透し、一人歩きしはじめるといえます。

橋懸り
 「橋懸り」とは、「能舞台で、鏡の間から本舞台に向かって斜めにかけた手摺りのある通路。役者の登場・退場のほか、舞台の一部とし ても用いる。また現世と幽界をつなぐ黄泉路の象徴」とあります。
 誰もがなりたい自分を想像するとき、「ハレ舞台」の自分が浮かびます。本舞台を踏むまでの過程を「橋懸り」とすれば、能舞台では「橋懸り」もまた観客から見られているという暗喩がいかにも粋です。
 「遠き橋懸り」では、本舞台に近づくために踏んだ「橋懸り」での一歩が、実は本舞台から「遠のく」ことさえあり、「事実は小説より奇なり」というリアリティに原作者の粋の継承があります。さらに本舞台までの距離はハナっから遠く、その遠さを知らぬ者には立てない厳しさも伝わってきます。